be brimful of love
「何か、すっげえな…。」
我愛羅の誕生日の当日、訪れた砂の里は風影サマの執務室を見回して、ナルトは思わずそう呟いた。
「そうか?」
絶句しているナルトに、丁寧にでも手早く包み紙をほどきながら我愛羅が小さく笑った。
他にも数人の付き人たちが同じように包みを開けている。各自、開けた箱は中身と手紙に分け、手紙
のほうにはプレゼントの内容と差出人をメモをして別の袋に入れているようだった。さらに、別の紙に
プレゼントの内容と差出人、それから手紙の有る無しを記入していく。
書類の山は別として、いつもはきちんと余計なもの一つ無く片付けられているこの部屋が、今日は色と
りどりのプレゼントと、それを包む包装紙の山に埋め尽くされていた。
それこそ足の踏み場も無いどころか、ほとんど床の絨毯も見えていない状態。
彼の誕生日前後にはかならず祝いに駆けつけているのだが、当日は式典やら何やらで我愛羅はとんでもな
く忙しいと本人からも聞いていたので、いつも遅めの時間にここではなく、彼自身の部屋に直接行ってい
たから、里長である彼の誕生日当日の、この里の状態を見るのは初めてだったのだ。
「いや、噂には聞いてたんだけど…見るのと聞くんじゃ迫力が違うっつーか…。」
里を挙げてのお祭ムード。普段の固い雰囲気に包まれたこの里を知っているだけに、あまりのギャップに
少々頭がクラクラした。
なにしろ、里中にお祝いの色とりどりの幟が立ちまくり、あちらこちらで記念グッズが売られ、花火は上
がるわ屋台は出るわ、役所の前にはプレゼント受付の特設テントが出てその前には長蛇の列ができてるわ
…。
「なんていうか、さ。お前人気ありすぎだろ…」
「まあ、平和だ、ということだろう。ありがたいことだ。」
それでも、そういう彼の表情は、穏やかに和いでいて、ナルトはひどく嬉しくなる。
もちろん、その贈り物の中に歯はたぶん純粋なものばかりではなく、さまざまなしがらみや思惑が絡んだも
のも多いのだろうが、それでも、ほとんどは多分、本当に純粋に彼を祝うために選ばれたものなのだろうと
思う。
例えば今、彼が持っている拙い包装がほどこされた、いかにも子供が好きそうな駄菓子とか。我愛羅は目を
細めて、それを暫く眺めてから、同封されていたカードと一緒に脇に置かれた大きな紙袋の中に入れた。紙
袋の中身は明らかに子供からだとわかるプレゼントばかりだった。
「なあ、オレもなんか手伝おっか?」
「なら悪いが頼む。」
「ん。何すればいい?」
「ああ、まず包みに札がついているだろう。」
「うん。」
「それに番号と名前と所属が書いてあるから、この表にそれを書いてくれ。それから包みを開けて中に手紙が
入っていたら札の番号をメモしてコッチに入れる。それから、表に手紙の有無と中に何が入っているか記入し
て終わりだ。後はそれをひたすら繰り返す。」
「おーらい。」
にっと笑ってOKマークを作って見せると、我愛羅もふっと口の端を上げて手の中の包みに視線を落とした。
「悪いな。」
「全然。」
低く呟かれた言葉に、ナルトは笑顔のまま首をふって、色とりどりの山の中から手近にあった包みを一つ手に
取り丁寧に開いていく。
我愛羅へ送られたそれらが、自分のもののように大切に思えて、ことさら手つきは丁寧なものになった。
手は休めないまま、ちらりと横目で見た彼は微かに笑みを浮かべたような柔和な表情で、自分と同じように包
みを解いている。
手の中の包みを見つめ、それから部屋の中を見回す。
三人ほどいる付き人の女性達も笑いあいながら、休むことなく丁寧に山積みの包みをほどいている。
部屋に満ちているのは穏やかな優しい空気。
部屋だけじゃなくて、この里全部が、そう言う空気に満たされている。
ああ、と今更のように気がついた。
これは、我愛羅の精一杯の努力の一つの結果だということ。
(願い事、ちゃんと叶ってんじゃん……。)
この里に必要とされる存在になりたいと、そう願った彼は、ナルトの知る限りずっとその願いをかなえるための
努力を惜しまなかった。
それは現在進行形で。
我愛羅は叶った願いの続きを目指している。
(負けらんねえよなあ……)
ほどいた包み紙をたたみながら、ナルトはこっそりと息を吐いた。
ホント、負けられねえ。
少しだけ先を歩く背中を、追いかけるのだ。
願いをかなえた彼への祝福と誇らしさと、それとほんの少しの悔しさも抱えて、全力で追いかけることを改めて
心に決める。
そのためにも、今は出来ることから一個ずつ。
あせっても碌なことなど無いのだから。
そう自分に言い聞かせて、ナルトはぐっと右手を握った。
「ナルト?」
ふいに呼ばれた声に、我に返る。ぱっと向けた目には不思議そうな顔をした我愛羅が映った。それだけで、ちょ
っと幸せな気分になれる。
それはきっと我愛羅が満たされているからなんだとナルトは思う。
だから、ナルトはことさらに明るく笑った。
「ん?ああ…、なんでもねえよ?なんかちょっとこーゆーのっていいなあとか思っただけー。」
「……?……そうか。」
「お前がさ、幸せそうだと、オレも嬉しいんだってばよ。」
彼にだけ聞こえるような声で囁くと、我愛羅は大きく目を見張ってから、すうっと鮮やかな笑みを浮かべた。
「オレもだ。」
「へ?」
「お前が幸せだと、幸せだと思える。」
少々間抜けな疑問系に返された、きっぱりとした言葉の意味を理解したら、全身の血がいっきに顔に逆流した
ような感じになった。
耳がとんでもなく熱い。
「〜〜〜〜!うっわ、まじ?」
「もちろん、まじだ。」
照れくささに任せて漏らした声に、涼しい表情で返されて、余計にあおられる。
恨めしげに上目遣いで我愛羅を見ると、彼はふいと目を伏せて呟いた。
「オレはお前が好きなのだからな。」
「……!」
度重なる爆弾発言にふっとびかけた理性を何とか押しとどめて、ナルトは搾り出すような声でぼやいた。
「ホントお前って……」
「ん?何だ?」
大きなため息を吐いた後、首を傾げた彼の耳元に、ナルトはいつも噛み締めている思いを口にした。
「だからさ、愛してるって言ったんだよ。」
Fin